型式を分類する

「撹拌をやさしく捉えてみよう【撹拌装置で使用する主な撹拌羽根と型式の分類】」のページの続きとなります。

前提として，製品を製造するために撹拌を利用するとします。

このとき，撹拌による微細化作用や吐出作用を発揮するために，動力源となる「正味の所要動力P_net」を必要とします。

そして，必要とする「正味の所要動力P_net」は，製品の「密度ρ」と「粘度η」に依存することがかりました。

このように考えてみると，あくまで一案ですが，撹拌装置の型式を分類する手法として，「密度ρ」と「粘度η」で考えるのが良いのかもしれません。

ちなみに撹拌装置の型式は，高速撹拌機と低速撹拌機の組み合わせによって下図のように分類されています。

「撹拌をやさしく捉えてみよう【乳化撹拌装置の主な型式】」のページでも説明していますが，製造する製品を意識してもう少し掘り下げて考えてみたいと思います。

そして，「撹拌装置の型式」と「製品の密度ρと粘度η」の関係を示したものが，後述する「撹拌マップ」になります。

何ら数値を示しておらずあくまで参考イメージ図となりますが，製品の「密度ρ」と「粘度η」に対して使用すべき撹拌装置の型式に目星を付け，最適な撹拌羽根の選定を含めて検討していくことになります。

ここでは，撹拌装置の選定時における考え方の一例を紹介します。

“高速撹拌機”を有する型式

上図の「撹拌マップ」における縦軸（粘度）に着目

”上部ダブル (VQ)”を基準としたとき，以下のような解釈をすることができます。

”上部独立2/3軸 (VⅡ/Ⅲ)”は，掻取ミキサーよりシンプルな構造であるアンカーミキサーを採用しているので，比較的低粘度の製品にのみ対応することができます。

アンカーミキサーによって高粘度の製品を強制的に流動させるのは，比較的不得意であると考えています。

一方で，洗浄性が向上するメリットがあります。

”上部トリプル (VT)”と”上下トリプル (VTU)”は，”上部ダブル (VQ)”よりも低速撹拌機が1基増えたことにより，高粘度の製品を強制的に流動させることが期待できます。

したがって，低粘度から高粘度の製品に対応することができます。

”上下トリプル (VTU)”は”上部トリプル (VT)”と同じ撹拌機構（高速撹拌機×1 + 低速撹拌機×2）の組み合わせですので，”上部トリプル (VT)” と同様の考え方ができます。

下部に高速撹拌機が備え付けられているので，”上下トリプル (VTU)” は少量の製品から製造できるメリットがあります。

”上部トリプル (VT)”で対象とする製品よりもさらに高粘度になると，”上部3/4軸 (VKD)”によるプラネタリーミキサーで混錬することができます。

しかしながら，プラネタリーミキサーによって低粘度の製品を適切に流動させることができません。

📝[memo]　 高速撹拌機が備え付けられているので，これを使用して低粘度の製品を流動させることはできます。

📝[memo]　 そのような場合は，わざわざ”上部3/4軸 (VKD)”のような真空練合装置を使用するのではなく，乳化撹拌装置を使用するのが適切です。

上図 の「撹拌マップ」における横軸（密度・硬度）に着目

”上下トリプル (VTU)”は，撹拌機構上，摺動部が常に製品と接触しています。

そのため，特に高密度（重たい）や高硬度の製品を長時間撹拌すると，この摺動部が破損してしまう懸念があります。

”上下トリプル (VTU)”は”上部トリプル (VT)”と同じ撹拌機構（高速撹拌機×1 + 低速撹拌機×2）ではありますが，高密度（重たい）や高硬度の製品に対してやや不得意であると評価しています。

一方，”上部3/4軸 (VKD)”では，プラネタリーミキサーによって強制的に高硬度の製品をすり潰すことが期待できます。

こうした理由から，”上部3/4軸 (VKD)”は他の撹拌装置よりも高硬度の製品に対してやや得意であると評価しています。

“低速撹拌機”のみを有する型式

上図 の「撹拌マップ」における縦軸（粘度）に着目

”上部シングル (VS)”を基準としたとき，以下のような解釈をすることができます。

”プロペラミキサー”は上下対流を引き起こす優秀な撹拌羽根ですが，高粘度の製品になると流動性が悪くなっていきます。

したがって， ”プロペラミキサー”は比較的低粘度の製品にのみ対応することができます。

📝[memo]　厳密にいうとプロペラミキサーは型式には該当しませんが，単独で使用することがあり得るので型式扱いとしました。

”上部ダブル (VP)”は”上部シングル (VS)”よりも低速撹拌機が1基増えたことにより，低粘度から高粘度の製品に対応することができます。

先述した上部トリプル (VT)” と同様の考え方ができます。

”上部ダブル (VP)”で対象とする製品よりもさらに高粘度になると，”上部2軸 (VK)”によるプラネタリーミキサーで混錬することができます。

ただし，”上部3/4軸 (VKD)”の場合と同様に，プラネタリーミキサーによって低粘度の製品を適切に流動させることができません。

上図の「撹拌マップ」における横軸（密度・硬度）に着目

”プロペラミキサー”によって高密度（重たい）の製品を浮上させることは不得意であると評価しています。

粘度のときと同様の考え方になります。

一方，”上部2軸 (VK)”は，”上部3/4軸 (VKD)”はの場合と同様に，プラネタリーミキサーによって強制的に高硬度の製品をすり潰すことが期待できます。

こうした理由から，他の撹拌装置よりも高硬度の製品に対してやや得意であると評価しています。