試験機による試作からわかること

「乳化撹拌装置でスケールアップをしてみよう【試験機による試作の流れ】」のページで試験機による試作の様子をご覧いただいたとして，そこから考察できることを考えていきましょう。

スケールアップをする際は試験機を使用することが大前提で話が進んできましたが，その意味について少し詳しく整理をしておきます。

“ビーカーワーク”と“試験機”の関係性・位置付けは何でしょうか？

人間の手ができること

例えば，撹拌機を使用してある原料を溶解する工程があったとします。

原料が入った容器を覗いてみると，撹拌機から離れた原料が上手く溶解できていませんでした。

そこで，容器を人為的に動かすことによって，原料を撹拌機に近づけることができます。

これは，人間の手は万能に動かすことができる！という特徴があるためにできることです。

人間の手で直接行う工程では，無意識のうちに，最適な条件となるような人為的操作をしている可能性があることに注意しなければなりません。

📝[memo]　ビーカーワークでは人間の手が自由に使えるんですね。

機械/装置ができること

次に，機械/装置を使用した場合について考えます。

先ほどのように，撹拌機から離れた原料が上手く溶解できていないとき，どうしたら良いでしょうか？
機械/装置になると，簡単に容器を動かすことができません。

これは機械/装置は大きな力を発揮するが，決められた動きのみをする！という特徴があるためです。

すると，機械/装置ではできないことが出てきそうです。

そのため，人間の手から機械/装置に代わることによって，できることやできないこと（不得意なこと）を把握することが重要になります。

📝[memo]　ビーカーワークに比べて，自由にできないことが増えてきそうですね。

試験機による試作時に確認すべきポイントは？

以上をまとめると，試験機による試作時に確認すべきポイントとして，次のように考えることができます。

ビーカーワークから試験機へスケールアップすることを想定するとき，上述したように，人間の手で行ってきたことを機械/装置へ任せることを意味します。

このとき，人間の手で行ってきたことを機械/装置へ任せることを意味します。

したがって，人間の手から機械/装置（試験機）に代わる点・操作は何か？ということを考えておきます。

そして，ビーカーワーク（手作業）に代わり，乳化撹拌装置（試験機）を使用することができるか？ということを確認することになります。

すなわち，試験機による試作で「スケールアップでエマルションを評価しよう【スケールアップの考え方】」のページで紹介した”忠実に再現する”ことができるか？を評価することになります。

ビーカーワークと試験機の比較

それでは，「乳化撹拌装置でスケールアップをしてみよう【試験機による検討】」のページで紹介した各工程で，”忠実に再現する”ことができるか？を確認していきましょう。

しかしながら，人間の手と機械/装置（試験機）を比較したとき，多くの異なる点があることが想像できます。

厳密に考えると，人間の手で行ってきた工程を機械/装置に任せる時点で，”忠実に再現する”ことができないと言えそうです。

…とは言いつつも，ここでは少し細かすぎるところもありますが，本来の考え方である”忠実に再現する”ことに着目して考えていきましょう。

ちなみに8つの工程がありますが，ここでは③と⑧は考えません。

① 油相の均一混合

② 水相の均一混合

③ （なし）

④ 乳化準備

⑤ 水相の投入

⑥ エマルションの調製

⑦ エマルションの冷却

⑧ エマルションの分析・評価

① 油相の均一混合

本工程におけるビーカーワークによる実施例が示されていないので，ここでは次のような操作をしていたと仮定して話を進めます。

以降の工程も同様です。

加熱

ビーカーワークでは別途ビーカーを使用して，温水（ウォーターバス）による湯煎加熱をしてきたとします。

一方，試験機では乳化槽を使用して，温水によるジャケット加熱をすることになりました。

加熱の手法が異なっていることがわかります。

撹拌

ビーカーワークでは任意の回転数で手撹拌をしていましたが，試験機では決められた回転数で掻取ミキサーを使用しました。

撹拌の手法が異なっていることがわかります。

同じ加熱工程であっても，”忠実に再現する”とは言えませんよね。

したがって，本工程は”忠実に再現する”ことはできなかったと考えます。

② 水相の均一混合

同じように水相の場合も考えたいところですが，ここで問題が発生します。

試験機は乳化槽が1つだけであり，溶解槽のような他のタンクがありません。

そのため，本工程は試験機を使用することができませんでした。

📝[memo]　「乳化撹拌装置でスケールアップをしてみよう【試験機による試作の流れ】」のページでも，ビーカーワークと同じ作業をしました。

したがって，試験機を使用した”忠実に再現する”か否かの確認はすることができず，本工程の検証は先送りすることになります。

④ 乳化準備

撹拌

ビーカーワークと試験機では，使用する撹拌機が異なります。

📝[memo]　少なくとも，ビーカーワークでは掻取ミキサーは使用できません。

また，試験機では減圧することができるので，撹拌時における圧力が異なります。

したがって，本工程は”忠実に再現する”ことはできなかったと考えます。

⑤ 水相の投入

撹拌

④ 乳化準備で紹介した内容と同じです。

異なる点が見受けられます。

投入

ビーカーワークでは任意の方法で水相を投入してきましたが，試験機ではホッパーを使用することになりました。

このとき，適切な投入時間や液温の保持を検討する必要が出てくるかもしれません。

したがって，本工程は”忠実に再現する”ことはできなかったと考えます。

⑥ エマルションの調製

撹拌

④ 乳化準備で紹介した内容と同じです。

したがって，本工程は”忠実に再現する”ことはできなかったと考えます。

ところで，ビーカーワークのときに”卓上型クイックホモミキサー”を使用できたときはどうでしょうか？

ビーカーワークで使用したホモミキサーと試験機で使用したホモミキサーを同一にすることができます。

この点に関しては，改めて後述します。

⑦ エマルションの冷却

冷却

ビーカーワークでは別途ビーカーを使用して，水道水にあてながら冷却をしてきたとします。

一方，試験機では乳化槽を使用して，水道水によるジャケット冷却をすることになりました。

冷却の手法が異なっていることがわかります。

撹拌

ビーカーワークでは任意の回転数で手撹拌をしていましたが，試験機では決められた回転数で掻取ミキサーを使用しました。

また，試験機では減圧することができるので圧力が異なります。

したがって，本工程は”忠実に再現する”ことはできなかったと考えます。

乳化撹拌装置（試験機）を使用できるか？

以上より，全ての工程で”忠実に再現する”ことはできなかったという結果になりました。

📝[memo]　そもそも，② 水相の均一混合の工程は検証不可でした。

…というのも，ある意味では当たり前の結果かもしれません。

人間の手で行ってきたことを機械/装置へ任せることになったので，ある意味で”忠実に再現する”ことは不可能と言えるでしょう。

”忠実に再現する”こと

しかしながら，”忠実に再現する”ことができなかったからと言って，スケールアップが失敗したことを意味するものではありません。

ここでは”忠実に再現する”ことはできなかったと評価しましたが，当社の経験的に問題とならないケースが多々見受けられます。

このようなケースでは”忠実に”とは言えませんが，スケールアップが成功したと考えることができます。

そこで，”忠実に再現する”ということに対して，次のような解釈をすることにします。

• ”忠実に再現する”ことができればスケールアップは成功するので，これを目指した手法を検討していくことが望ましい。
• しかしながら，ビーカーワークにおいて人間の手で行ってきた工程は，機械/装置に任せる時点で”忠実に再現する”ことができない。
• ただし，スケールアップに大きく寄与する因子でなければ，”忠実に再現する”ことができなくてもスケールアップは成功する。

このように考えると，試験機が使用できるか否かの判断は，実際に試作をしてみないとわからないことを意味しています。

試作をする前段階でも”忠実に再現する”か否かは判断できますが，それらがスケールアップに大きく寄与する因子であるか否かまではわかりません。

「乳化撹拌装置でスケールアップをしてみよう【試験機による検討】」のページで紹介したように，最終目標は，ホモミキサーを備えた乳化撹拌装置（生産機）を使用して製品を製造することです。

そのためには，まずは試験機による試作が成功することが大前提となります。

乳化撹拌装置が使用できることを確認できない限りは，その後の乳化撹拌装置を使用したスケールアップの段階へ進むことができません。

エマルションの調製で事前に検証でできること

重複する部分はありますが，これまでの内容を整理すると次のようになります。

• 卓上型クイックホモミキサー（ビーカーワーク）を使用すると，乳化ができるか否かの評価のみをすることができる。
• 乳化撹拌装置（試験機）を使用すると，乳化に係る一連の工程を任せることができるか否かの評価をすることができる。

📝[memo]　機械/装置に任せることができない工程は，ビーカーワークと同様に人間の手で作業をすることになります。

このとき，ビーカーワークの際にホモミキサーが使用できれば，早い段階で高速撹拌機の選定ができることを意味します。

したがって，卓上型クイックホモミキサーを使用いただくことをお勧めしています。

📝[memo]　次の乳化撹拌装置（試験機）による試作時において、ホモミキサーの使用可否を検証する必要がなくなります。