📚 (4-1) スケールアップでエマルションを評価しよう【スケールアップの考え方】
- #乳化撹拌装置
- #乳化
- #エマルション
- #スケールアップ

スケールアップ(生産技術検討)

「Introduction【全体イメージ】」のページで少し触れましたが、ここからはスケールアップについて考えてみましょう。
最初に製品設計を行い、その後の試作実験を経て良いものができた!…となったときに、実際に製品を製造するためのプロセスへと進みます。
このとき、「研究室で調製したサンプル」=「工場で製造した製品」となるような製造工程の開発が求められます。

研究室ではサンプルを調製します。
一方、工場では製品を製造することになります。
「研究室で調製したサンプル」=「工場で製造した製品」とするためには、研究室で調製する”サンプルの品質”と工場で製造する”製品の品質”を同じにすることが求められます。
📝[memo] ”サンプルの品質”=”製品の品質”であれば、サンプルと同じ製品を製造できると考えることができますね。
このようなことを目指して、工場技術者と共に研究室規模から生産規模へのスケールアップの研究(生産技術検討)が行われることになります。

「もし」の話になりますが、研究室によるサンプルの調製を忠実に再現することができるのであれば、工場による製品の製造も成功することを意味します。
言葉にすると当たり前のことですが、製造規模や装置の大きさが異なるのに、「忠実に再現する」ということができるのでしょうか?
エマルション調製に必要な2つの力
「撹拌の立場から乳化をイメージしよう【エマルションの調製手順と“機械的な力”】」のページでも紹介した内容ですが、少し振り返ってみましょう。

エマルションが調製されるまでの流れを見ていくと、エマルションを調製するためには次の2つの力が必要であると考えることができます。
- 処方的な力
- 機械的な力

それでは、これら2つの力がスケールアップ時にどのように変化していくかを考えてみましょう。
処方的な力

エマルションの調製手順(処方)に関する力になります。
①温度、②圧力、③各相の化学組成(濃度)が取り得る変数によって、界面張力が最小になる領域を作るのが目的となります。
スケールアップは「規模」を変更する操作を意味しているので、通常、この”処方的な力”を変更することはありません。
📝[memo] ”処方的な力”の変更は「製品の種類」の変更を意味しますので、スケールアップとは別の話になってきますね。
すなわち、”処方的な力”はスケールアップ前後で変化しないと考えることができます。
機械的な力
エマルションが調製されるまでの流れのところで、赤い四角で囲った部分の工程で使うことになります。
外部からのエネルギー(撹拌という機械的エネルギー、機械力)によって、強制的に液滴を作り出すのが目的となります。

ここでポイントとなるのは、使用する撹拌装置が変わったとしても“機械的な力”を等しく与えることです。
もしこのようなことができれば、”機械的な力”はスケールアップ前後で変化しないと言えます。
このとき、スケールアップ前後で”処方的な力”と”機械的な力”は変化しない(=等しい・同じ)という状況を作り出すことができます。
すなわち、スケールアップ前後で同じエマルションができあがると考えることができます。
その結果、製造規模や装置の大きさが異なるのに「忠実に再現する」ということができるのではないでしょうか?というのが当社からの提案です。
今後、スケールアップに関する内容が続いていきますが、基本的には”処方的な力”と”機械的な力”は変化しない(=等しい・同じ)という考えに基づいて話を展開していくことになります。
エマルション調製に対する機械的な力の役割
”処方的な力”は変化しないとして、”機械的な力”に着目して考えてみたいと思います。
エマルションを調製する場合、”機械的な力”はどのような役割を果たしているのでしょうか?

”機械的な力”は、撹拌することを意味していました。
「撹拌をやさしく捉えてみよう【撹拌作用の使い分け】」のページででも紹介した通り、「撹拌すること」=「撹拌作用」として捉えることにすると、エマルション調製時には”微細化作用”がメインに発揮されます。
このとき、”微細化作用”はどのような働きをするのでしょうか?

乳化粒子の大きさ・分布

撹拌による”微細化作用”によって、物質を細かくすることができます。
したがって、乳化粒子(油滴)の大きさを変化させることができると考えることができます。
📝[memo] ”乳化”とは、お互いに混ざり合わない二種類の液体のうち、一方の液体が微粒子となって他方の液体中に分散させることでした。
組織体の大きさ・膨潤状態(粘度)

同様に考えると、乳化粒子(油滴)以外にある組織体が存在するのであれば、その大きさを変化させることができます。
例えば、増粘剤は水と接触すると膨潤するので、ここで言う”ある組織体”に該当します。
ところで、ある液体を見て粘度が高い・低いというような評価をしますが、粘度を決める要因をどのように考えたら良いでしょうか?
ここでは、次のような状況のときに粘度が高くなると考えることにします。
分散液中に組織体が存在
組織体の存在が、分散液の流れに対して抵抗 👉 分散液の流動性が悪化します。
分散液中の物質が膨潤
水を束縛することにより、見かけ上、自由に動くことができる水の量が減少 👉 分散液の流動性が悪化します。
したがって、粘度を変化させることができると考えることができます。
スケールアップの成否
例えば、研究室で小型の試験機を使用してサンプルの調製をしたとします。その結果、良い評価が得られたとします。
そこで、大型の生産機を使用して製品を製造してみると、①エマルションの分離が確認される、②所定の粘度・色調が得られないといった事例が起こり得ます。
📝[memo] スケールアップが上手くいかないとき、これらは良く起こる事例となります。

化粧品の4つの品質と言われる中で、このような事例は「安定性」と「使用性」に該当します。
スケールアップが上手くいかないということは、”機械的な力”が等しくないことを意味します。
果たして、”機械的な力”が等しくないことで「安定性」と「使用性」が変化することはあるのでしょうか?
🚩 [引用:光井武夫『新化粧品学』南山堂,1993]
機械的な力による品質への影響
段々と複雑な話になってきましたので、一旦整理をしたいと思います。

- 使用する撹拌装置が変わったとしても“機械的な力”を等しく与えることが重要でした。
- ”機械的な力”は、撹拌することを意味していました。
- 「撹拌すること」=「撹拌作用」として捉えることにしました。
- エマルション調製時においては、”微細化作用”がメインに発揮されます。
- 撹拌による”微細化作用”によって、「乳化粒子の大きさ・分布」や「組織体の大きさ・膨潤状態(粘度)」が変化します。
以上をまとめると、“機械的な力”が変化すると「乳化粒子の大きさ・分布」や「組織体の大きさ・膨潤状態(粘度)」が変化するということが言えそうです。
このとき、機械的な力によって生じる「乳化粒子の大きさ・分布」や「組織体の大きさ・膨潤状態(粘度)」の変化が、エマルションの品質(「安定性」と「使用性」)に寄与するか否かを調べておく必要があります。

もし、”機械的な力”と”エマルションの品質”との間に関係性があれば、スケールアップの成否の判断基準として適しているとも言えそうです。
そこで、これからは表における”?”の項目について考えていくことにします。
