”スケールアップの考え方”の整理⑵

「スケールアップ理論を考えてみようー乳化編【相似則の利用】」のページで，表を作成しました。

特に，力学・運動学的相似（回転数と乳化/混合時間）について確認してきました。

低速撹拌機においては，無次元混合時間の考え方が採用されていました。

しかしながら，高速撹拌機においては，この考え方をそのまま採用できないということがわかりました。

以上の考え方をまとめると，下図のように表すことができます。

現段階で説明していない箇所は”？”としています。

「スケールアップ理論を考えてみよう ー 乳化編【スケールアップによる製造規模の変更】」のページで紹介したテーマに戻ってみましょう。

試験機でホモミキサーの最適な回転数・乳化時間を決めたにも関わらず，生産機におけるホモミキサーの回転数・乳化時間を改めて決める必要がありました。

したがって，“高速撹拌機（ホモミキサー）”による機械的な力をどのようにして決めたら良いか？ということに着目して考えていかなければなりません。

このとき，「スケールアップ理論を考えてみよう ー 乳化編【相似則の利用】」のページで紹介した”力学・運動学的相似”を満たすように，無次元混合時間とは別の条件を探すことになります。

ホモミキサーによる微細化作用

ここで，ホモミキサーについて振り返ってみましょう。

「撹拌をやさしく捉えてみよう【低速撹拌機と高速撹拌機】」のページで，ホモミキサーは固定化されて動かない部品「ケーシング」と高速で回転する「タービン羽根」から構成されていることを紹介しました。

そして，粒子がタービン羽根を通過すると，微細化作用が働きます。

また，「撹拌をやさしく捉えてみよう【撹拌をどのように利用するべきか？】」のページで，微細化作用を発揮する代表的な力は”せん断力”であると紹介しました。

📝[memo]　固定化されて動かない部品「ケーシング」と高速で回転する「タービン羽根」によって，強制的に速度差が生じていますよね。

ここで，スケールアップ時には次のような考え方をすることにします。

それは，スケールアップ時におけるホモミキサーによる微細化作用は，“せん断力”のみによって働くと考えることにします。

すなわち，ホモミキサーによる微細化作用は，100%せん断力によるものであると決めてしまいます。

実際のホモミキサーによる微細化作用の様子を見てみましょう。

液滴が固定化されて動かない部品「ケーシング」と高速で回転する「タービン羽根」の間に入り込み，速度の差によって変形が生じることが確認できます。

その結果，“せん断力”によって油が引きちぎられ，微細化した油滴が生成されます。

動画はホモミキサーを下から覗いた様子であり，左端の真ん中辺りに存在する液滴がホモミキサーのせん断力によって微細化されていく様子がわかります。

ホモミキサーによるスケールアップの考え方

ホモミキサーによる微細化作用は“せん断力”のみによって働くという考え方を前提として，スケールアップをするにあたって，次の2つの条件が成り立つような設定をすることを考えます。

① せん断力が等しくなるようにする。

試験機で使用するホモミキサーと生産機で使用するホモミキサーは，発揮するせん断力が等しくなるように設定します。

せん断力が等しいことは，同じ大きさの液滴が生成することを意味します。

② パス回数が等しくなるようにする。

試験機で使用するホモミキサーと生産機で使用するホモミキサーは，高速で回転する「タービン羽根」を通過する回数（＝パス回数）が等しくなるように設定します。

その結果，液滴は等しくせん断応力を受けることを意味します。

📝[memo]　”せん断力”と”せん断応力”という言葉の使い分けがややこしいですが，ここでは気にせずに進めることにしましょう。

上述した2つの条件をまとめると，_①せん断力が等しいホモミキサーに対して_②同じ回数だけ通過すると，同じ大きさ・分布の液滴が形成すると考えることができます。

この考えをもって，スケールアップ前後（研究室と工場）における”機械的な力”を等しくすることができるだろう！というのが，ここでの提案になります。

これが，当社の考えるホモミキサーによるスケールアップの基本的な考え方になります。

📝[memo]　最終的に生成する液滴の大きさ・分布が等しくなるので，結果的に”機械的な力”が等しい！と判断することができます。

ホモミキサーによるスケールアップ計算式

上述した2つの条件を式にすることを考えます。

先に結論から紹介します。

（条件①）せん断力が等しくなるようにする

条件①の考え方を式にすると，以下のようになります。

ただ，これまでに「せん断力」について述べてきたのにもかかわらず，式では「周先端速度」という言葉に置き換わっています。

「スケールアップ理論を考えてみよう ー 乳化編【せん断力が等しくなるようにする】」のページで，この理由について考えることにします。

（条件②）パス回数が等しくなるようにする

続いて条件②の考え方を式にすると，以下のようになります。

パス回数の式がメインとなりますが，あらかじめ吐出量を計算しなければなりません。

そのため，別途吐出量の式を設けているため，式が2つ必要になります。

以上が，実際にスケールアップ計算をするときに必要な最低限の情報となります。

まずは実際に計算式を使ってみる！ということであれば，ここまでの知見でも大丈夫です。

ここから先は，少しずつ踏み込んだ内容となっていきます。