単位体積あたりの”動力”と”吐出量”

これまで，「スケールアップ理論を考えてみよう ー 乳化編【単位体積あたりの動力一定時における撹拌作用の変化】」や「スケールアップ理論を考えてみよう ー 乳化編【単位体積あたりの吐出量一定時における撹拌作用の変化】」のページで様々な考え方を紹介してきましたが，これら2つについて整理をしておきましょう。

最初に，単位体積あたりの”動力”を紹介しました。

このときの考え方は，①平均液滴径が等しい，②物質移動速度が等しいことを目指したものでした。

そして，スケールアップによって使用する羽根径が変化すると，撹拌作用である「微細化作用」や「吐出作用」が変化してしまうことがわかりました。

そこで，ここでは混合を主目的としているので，特に「吐出作用」が変化しないような手法を考えることにしました。

すなわち，（単位体積あたり）の吐出量を等しくする考え方です。

この考え方では，回転数が等しいことを目指せばよいことがわかりました。

その結果，スケールアップによって使用する羽根径が変化すると「微細化作用」は変化しますが，「吐出作用」は一定であり変化しません。

しかしながら，この手法を採用するためには試験機と生産機の回転数が等しいことを意味するため，非常に大きなモータを必要とします。

したがって，経済性や技術的な問題から，実務ではこの考え方は採用できないという事情があります。

“低速撹拌機”の機械的な力の評価

ここで，機械的な力について整理をしておきましょう。

「スケールアップ理論を考えてみようー乳化編【周先端速度一定時における撹拌作用の変化】」のページでも考えたように，”機械的な力”を等しくすることを目指すことになります。

しかしながら，様々な考えをしたもののスケールアップ前後で微細化作用Heと吐出作用Qは変化してしまいます。

“機械的な力”を等しく与えることを目指してきましたが，実際にはスケールアップ前後で“微細化作用He”と“吐出作用Q”を共に等しくすることはできません。

そのため，妥協する形になるかもしれませんが，“低速撹拌機”におけるスケールアップでは，多くの場面で単位体積あたりの”動力”を等しくする考え方が採用されていると推察できます。

これは，平均液滴径や物質移動速度が等しくすることで”機械的な力”を等しいとみなすことができるだろう！という考えから得られた結論でした。

📝[memo]　当社が得意とする分野は“高速撹拌機”なので，“低速撹拌機”に対する深掘りはこの程度で留めたいと思います。

”スケールアップの考え方”の整理⑸

これで低速撹拌機に関する話が一段落するので，高速撹拌機と比較する形でまとめをしたいと思います。

幾何学的相似

撹拌機の回転数が「高速」 or 「低速」であるかによって，幾何学的相似を「満たす」 or 「満たさない」が決まってきました。

一般的に，高速撹拌機では幾何学的相似を満たしませんが，低速撹拌機では幾何学的相似を満たしています。

力学的相似

高速撹拌機と低速撹拌機では，撹拌目的や発揮する撹拌作用が異なります。

そのため，スケールアップで採用される力学・運動学的相似の考え方も異なっていることがわかります。

📝[memo]　低速撹拌機で採用される力学・運動学的相似として，パス回数と同じ循環回数の考え方を取り入れる場合があるので追加しています。

羽根径

高速撹拌機では幾何学的相似を満たさないため，スケールアップで羽根径を議論することはありません。

低速撹拌機では，幾何学的相似を満たすように羽根径を決定します。

回転数・乳化/撹拌時間

以上の考え方から，具体的な回転数・乳化/撹拌時間を求めるための計算式が得られます。

高速撹拌機や低速撹拌機で異なっていました。

“相似則”の関係を採用すると，様々な考え方からスケールアップの計算式が成り立っています。

パドルミキサーのような低速撹拌機では，下表で示す計算式（青字）を採用することになります。

複数のページにわたって，低速撹拌機におけるスケールアップを考えてきました。

様々な例を数式で紹介してきましたが，ようやくここで終了です。

📝[memo]　様々な考え方は終わりですが，スケールアップ計算事例がもう少し続きます。

当社は高速撹拌機を主力とするメーカーですので，このような考え方は直接関係ないと言えます。

しかしながら，従来の考え方と対比して検討するため，このような紹介をさせていただきました。

どんどんと内容が複雑になってきましたが，まずはこのような考え方があるんだ！くらいの気持ちで大丈夫です。