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📚 (5-22) スケールアップ理論を考えてみよう ー 乳化編【撹拌機が行う仕事】

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アイキャッチ【スケールアップ理論を考えてみようー乳化編】

ホモミキサーによるトルク

電車で旅行している人達

ここからは,少しおまけのような話となります。

ホモミキサーを使用して流体を動かすことを考えたとき,必要なトルクや仕事を理論計算したいと思います。

理化学辞典によると,「固定軸のまわりの剛体の回転では,剛体の各部分に働く力の固定軸のまわりのモーメントだけが有効であり,これをその軸まわりのトルクと言う」と書かれています。

このままでは難しい表現なので,「ある物体を回転させるための能力」と理解することにします。

そして,「物体」=「流体」と置き換えて,ホモミキサーによるトルクを考えます。

トルク

一般に,トルクは「物体に加わる力」と「回転の軸からみた力の加わる点までの距離」の積で表される量です。

物体=流体と置き換えるので,「”流体”に加わる力FH」を考えることになります。

これは,「撹拌をやさしく捉えてみよう【撹拌による槽内の流動】」のページで紹介したように,「”流体”に加わる力FH」が慣性力になると考えることができます。

この慣性力が粘性力を上回ることができれば,流体は自由に動くことができます。

慣性力と粘性力
🚩 慣性力と粘性力
ホモミキサーによるトルク
🚩 ホモミキサーによるトルク

また,回転の軸からみた力の加わる点までの距離=羽根径の半分(半径)と置き換えることができます。

したがって,「羽根径の半分(半径)D/2」を考えることになります。

以上より,トルクは「TH = FH・D/2」と表すことができます。

📝[memo] トルクによって流体が動くのであれば「吐出作用」,トルクによって速度差が生じてせん断力を受けるのであれば「微細化作用」が働いていると考えることができます。

仕事

音楽を聴きながら仕事をする人

次に,1分間に行う仕事を考えます。

一般に,力が物体に対してした仕事は「力」と「変位」の積で表される量です。

「力=”流体”に加わる力FH」と置き換えます。

鼻緒ずれ

続いて,「変位」を考えます。

ホモミキサーのような撹拌機は回転するので,回転による移動距離を変位として考えることができます。

「スケールアップ理論を考えてみよう ー 乳化編【周先端速度が等しくなるようにする】」のページで紹介した周先端速度πND/60が,1分間あたりの移動距離に相当します。

以上より,1分間に行う仕事は「PH = FH・πND/60」と表すことができます。

さらに,トルクTHを用いた表現とすると,1分間に行う仕事は「PH = πTHN/30」と表すことができます。

📝[memo] 「TH = FH・D/2」であったので,「FH = 2TH/D」を代入します。

ホモミキサーが行う仕事の式
🚩 ホモミキサーが行う仕事の式

流体が球形粒子に及ぼす抵抗

ホモミキサーを使用してエマルションを調製するとき,生成する乳化粒子は液滴なので球状と言えます。

そこで,撹拌で力を受けた流体が球形粒子に及ぼす抵抗を考えます。

反抗期の息子と母親

昔,球形粒子の抵抗について次のような実験をした人がいました。

撹拌レイノルズ数Reと抵抗係数CDの関係を調べたところ,下図のような傾向があることがわかりました。

「撹拌をやさしく捉えてみよう【撹拌による槽内の流動】」のページで紹介したように,通常想定される撹拌機の使用方法であれば,自然と乱流が生じるような撹拌になっていると考えられます。

0点の答案

そこで乱流域に着目すると,グラフの傾きは0とみなすことができます。

すなわち,乱流域では抵抗係数CDが近似的に一定となります。

📝[memo] 撹拌レイノルズ数が105以上のときに抵抗係数CDが一定とはなっていませんが,ここでは考えないようにします。

引用:Schlichting, H. : Boundary Layer Theory, 6th ed., McGraw-Hill, 1968

そして,球体の抗力実験式が成り立つとして,「”流体”に加わる力FH」が「球形粒子の抵抗力Rf」と等しくなることを考えます。

「”流体”に加わる力FH」が「球形粒子の抵抗力Rf」を上回るとき,流体を動かすことができるようになります。

すなわち,流体を動かすために必要な最低限の力と理解することができます。

🚩 球体の抗力実験式

トルクと仕事

以上の考え方から,撹拌レイノルズ数の違いによってホモミキサーが行う仕事がどうなるかを調べてみたいと思います。

粒子の物性(粘度η・密度ρ・粒子径d)は変化せずに一定であるとします。

乱流 Re > 500

乱流域1
🚩 乱流域1
粒子に働く抵抗力

上述した球体の抗力実験式について,抵抗係数CDが一定として球形粒子の抵抗力Rfを考えます。

そして,この力と”流体”に加わる力FHが等しいとします。

つまり,FH = Rfが成り立ちます。

続いて,球形粒子の流速vはホモミキサーによる周先端速度U (= πND/60)と等しいとします。

📝[memo] 周先端速度の式は,「スケールアップ理論を考えてみよう ー 乳化編【周先端速度が等しくなるようにする】」のページで紹介しています。

すると,粒子に働く抵抗力は”N2D4”に比例することがわかります。

📝[memo] N → 回転数,D → タービン羽根の直径(羽根径)とします。

📝[memo] 粒子径dは,タービン羽根の直径(羽根径)Dで表現するようにします。

粒子を動かすために必要なトルク

次に,”流体”に加わる力FHが”N2D4”に比例するとして,粒子を動かすために必要なトルクTHを考えます。

上述したホモミキサーによるトルクの式に,FH = N2D4を代入します。

すると,粒子を動かすために必要なトルクは”N2D5”に比例することがわかります。

電話対応に追われる会社員
ホモミキサーが行う仕事

最後に,粒子を動かすために必要なトルクTHが”N2D5”に比例するとして,ホモミキサーが行う仕事PHを考えます。

上述したホモミキサーが行う仕事の式,TH = N2D5を代入します。

すると,ホモミキサーが行う仕事は”N3D5”に比例することがわかります。

ところで,”N3D5”とは何だったでしょうか?

「撹拌をやさしく捉えてみよう【撹拌装置で使用する主な撹拌羽根】」のページで紹介したように,乱流域における正味の所要動力Pnetを意味します。

このようにして,「ホモミキサーが行う仕事PH」と「正味の所要動力Pnet」を結びつけることができました。


重力を発見したニュートン

ちなみに,粒子に働く抵抗力は球体の抗力実験式ではなく,Newtonの抵抗則でも表すことができます。

Newtonの抵抗則

FH = 0.055πρd2v2 = 0.055πρd2(πND/60)2 ∝ N2D2d2 ∝ N2D4

層流域 Re < 2

層流域1
🚩 層流域1
粒子に働く抵抗力

乱流域の場合と同様にして考えます。

層流域の場合,抵抗係数CD = 24/Reとなります。

📝[memo] 撹拌レイノルズ数は,「撹拌をやさしく捉えてみよう【撹拌による槽内の流動】」のページで紹介しています。

すると,粒子に働く抵抗力は”ND2”に比例することがわかります。

📝[memo] 流体の物性(粘度・密度)を変化させた場合も検討することがあるので,Reを残した式も併記しています。

粒子を動かすために必要なトルク

乱流域の場合と同様にして考えます。

すると,粒子を動かすために必要なトルクは”ND3”に比例することがわかります。

汗を拭う整備士
ホモミキサーが行う仕事

乱流域の場合と同様にして考えます。

すると,ホモミキサーが行う仕事は”N2D3”に比例することがわかります。

ところで,”N2D3”とは何でしょうか?

「撹拌をやさしく捉えてみよう【撹拌装置で使用する主な撹拌羽根】」のページで紹介したように,層流域における正味の所要動力Pnetを意味します。

このようにして,「ホモミキサーが行う仕事PH」と「正味の所要動力Pnet」を結びつけることができました。


猫に仕事を邪魔される人

参考までに,粒子に働く抵抗力について,Stokesの抵抗則を導入することを考えます。

これは,「スケールアップでエマルションを評価しよう【エマルションの安定性(クリーミング)】」のページで紹介したStokesの式の考え方で登場するものです。

次の条件を満たすとすると,”ND2”に比例することがわかります。

  • 粒子が球であるとき
  • 球の速度vが極めて遅く,粘性力が支配するとき
Stokesの抵抗則

FH = 3πηdv = 3πηd(πND/60) ∝ NDd ∝ ND2

乱流域における粘度・周先端速度変化

漏水調査

層流域の場合では抵抗係数CD = 24/Reとなるので,ホモミキサーが行う仕事を表す際にReを残した式も併記しました。

一方で,乱流域の場合ではReを残した式を併記することはありませんでした。

📝[memo] 抵抗係数が近似的に一定としたため,撹拌レイノルズ数が出てきませんでした。

そのため,撹拌レイノルズ数と抵抗係数の詳細な関係が知りたくなります。

抵抗係数CDを変数として取り扱うとき

抵抗係数が一定ではなく,変数として取り扱った場合を考えます。

乱流域2
🚩 乱流域2

撹拌レイノルズ数と抵抗係数の関係

ここでは,文献にて撹拌レイノルズ数と抵抗係数の関係を紹介します。

乱流域について議論しているので、撹拌レイノルズ数が700以上のときに注目したいと思います。

📝[memo] 表中のCが,抵抗係数CDに相当します。

オオカワウソ

例えば,ある撹拌条件で製品を撹拌することを想定したとき,撹拌レイノルズ数は「Re1 = 300,000」だったとします。

このときの抵抗係数は「CD1 = 0.20」です。

そして,撹拌条件は同じで粘度が100倍になった製品を撹拌することを考えます。
すると撹拌レイノルズ数は「Re2 = 3000」となり,このときの抵抗係数は「CD2 = 0.40」です。

📝[memo] 粘度が100倍になると,撹拌レイノルズ数は1/100になります。

その結果,CD2/CD1 = 0.40/0.20 = 2倍の動力が必要になることが予想されます。

引用:Lapple, C. E. and C. B. Shepherd: Ind. Eng. Chem., 32. 605 (1940)
Perry, R. H., et al.: “Chemical Engineers’ Handbook”, 4th ed., 5-61. McGraw-Hill, New York (1963)

ただし,これはあくまでも推測値であり考え方の一例です。

製品の粘度が変わったとしても,ホモミキサーが行う仕事が同じように発揮されていることが前提です。

撹拌機メーカーが持つノウハウや経験を加味して,最終的な判断がなされます。

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